日本には侘び寂び、閑寂・清澄、枯淡の境地などという本来ならば負の感情や衰退などを意味する様な、しみじみとした哀愁や不完全を愛する文化や美があります。それとは逆に超絶技巧と呼ばれる明治工芸の作品たちには、そのほとんどがきらびやかで色彩鮮やかな意匠が多く、完成された美が求められます。前原さんの作品からはその相反する様に思える二つの文化を感じることが出来ます。寸分の狂いも許さないその技術で、不完全な哀感を表現する氏のセンスに惹かれました。
まるで本物の大理石と錯覚してしまうこの台はどこにも継ぎ目はなく、一木のサクラから彫りだされています。鋤鋏やカミソリも一木から彫りだされており、重たそうな見た目と裏腹に細部まで繊細に彫り込まれ、恐ろしく軽く仕上げられております。
ご本人はただ黙々と彫り続けるだけ、塗り続けるだけ。とおっしゃいますが、その刀痕さえ一切残さないスタイルは、想像以上の労力と妥協を許さぬ執念が必要です。実際この作品も本当に長い時間をかけて制作して頂きました。
錆びれた風景の中にもどこか人がいた気配を感じる作品です。
size 61cm-24cm-3cm(h) 台のみ